お知らせ・リリース

2025.6.3

生産現場でのトマトの生育・収量予測情報の利用を可能に!ー「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)のアプリケーションを開発しました ー

農研機構
株式会社NTTアグリテクノロジー

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(本部:茨城県つくば市/理事長:久間 和生、以下「農研機構」)と、株式会社NTTアグリテクノロジー(本社:東京都新宿区/代表取締役社長:酒井 大雅、以下「NTTアグリテクノロジー」)は、農業データ連携基盤「WAGRI1)」上で提供する「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」のAPI2)を活用した実証試験を実施しました。この実証結果をもとに、NTTアグリテクノロジーは、施設(ハウス)で栽培されるトマトの生育や収量を簡単にシミュレーションできるアプリケーションを開発しました。

1.背景・目的

世界的な気象変動や地政学リスクの顕在化により、日本においても食の安定供給に対する社会的な要請が高まっております。作物を年間通して安定的に栽培可能な施設園芸ではセンシング技術や情報通信技術の進展により、施設(ハウス)内の環境データを収集し簡単にモニタリングすることが可能になっています。このような背景のもと、農研機構は環境データや生育データに基づき、その環境下での果菜類の生育や収量をシミュレーションする「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」を開発し2023年11月6日にWAGRIにAPIを公開しました。

この度、農研機構とNTTアグリテクノロジーは、農研機構がWAGRIで提供する「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」のAPIを活用した実証試験を実施し、その結果を元にNTTアグリテクノロジーが施設(ハウス)で栽培されるトマトを対象に、生育や収量を簡単にシミュレーションできるアプリケーションを開発しました(図1)。フードチェーンのファーストステップである生産工程において、収量の予測が実現できると、収穫時期の把握、栽培計画の策定、さらに物流計画も立てやすくなります。これにより生産性の向上、環境負荷やフードロスの削減といった社会課題の解決に役立てることが期待されます。

2.本アプリケーションの特徴

●気温や日射量などの環境データと葉面積指数3)などの生育データを入力することで、施設(ハウス)で栽培されるトマトの1作におけるポテンシャル収量(理想的な環境条件下で達成される収量)を算出し年間計画を策定することが可能。

●様々な環境制御設定のデータを入力することで、2週間先や1ケ月先の収量の予測シミュレーションが可能。

●地域や季節に応じた生育予測シミュレーションを行うことで、環境制御の最適化を実現可能。

●作型や栽培管理状況に合わせたカスタマイズにより、現場の多様な条件に対応可能。

●シンプルなデータ入力と直感的な操作性により、特別なスキルがなくても簡単に収量の予測をシミュレーションできる設計。

●パソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンなど様々なデバイスで利用可能であり、いつでも、どこでもアクセスできる高い利便性。

3.本アプリケーションの利用イメージ

【STEP1】施設(ハウス)内の環境データと生育データなどをアプリケーションに入力。

【STEP2】WAGRIの「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」が予測収量を計算。

【STEP3】予測収量の結果を元に、年間・月間・週間単位での収量の見通しを定量的に評価。

生産者がめざす収量目標と予測収量に差がある場合には、【STEP1】で入力する環境制御設定のデータを変更し、収量のシミュレーションを繰り返すことで収量に与える影響を検証し、環境制御に関する意思決定をより適切な形で行うことが可能になります。農業従事年数に関わらず幅広い生産者が利用可能なことから、生産者は従来の勘や経験に頼った管理から、データに基づいた効率的な栽培管理を実践できるようになり、トマトの生産現場における日々の管理や経営における意思決定を助けます。これにより、収量の最大化や無駄のない資源活用が可能となり、収益向上に貢献することが期待されます。

図1 農研機構のAPIを活用してNTTアグリテクノロジーが開発した収量予測アプリケーションの概要

<関連情報>

本研究の一部は内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術によって実施されました。

特許:特許第7557853号

本研究の一部は内閣府総合科学技術・イノベーション会議の研究開発と Society 5.0 との橋渡しプログラム(BRIDGE)によって実施されました。

4.今後の予定・期待

今後は、幅広い現場のニーズに応えるため「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」の機能拡張により、品目の追加や産地ごとのカスタマイズなどを進める予定です。アプリケーションの提供を通じ、より多くの生産者が、地域や生産規模を問わずデータに基づく持続可能な農業経営の実現をめざします。

5.本件に関するお問い合わせ先

■農研機構

研究推進責任者:農研機構 野菜花き研究部門 所長 東出 忠桐

研究担当者:同 施設生産システム研究領域 研究領域長 礒﨑 真英

グループ長 安 東赫

上級研究員 菅野 圭一(現企画戦略本部セグメントⅢ理事室)

広報担当者:同 研究推進室 仁木 智哉

TEL 029-838-6606

プレス用e-mail vf-gaibu-koho@naro.affrc.go.jp

株式会社NTTアグリテクノロジー

マーケティング統括本部 セールスソリューション部

E-mail: contact@ntt-agritechnology.com

※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。

用語の解説 

1)WAGRI

農業データ連携基盤(WAGRI)とは、農業向けの情報システム間において、データ連携を促進するためのプラットフォームです。農研機構が運用を行っています。詳しくはWAGRIのウェブサイトをご覧ください。URL: https://wagri.naro.go.jp/

2)API

APIとはApplication Programming Interfaceの略であり、ソフトウェアやサービス同士をつなぐ「橋」のような役割を果たします。たとえば、天気予報アプリが気象データを自動で取得できるのは、気象機関が提供するAPIを利用しているからです。WAGRIで提供されている生育・収量予測に関するAPIもその一つで、インターネットを通じて利用できるWeb-APIに分類されます。これを使うことで、アプリなどからWAGRIの予測データを簡単に取得することができます。

3)葉面積指数

葉面積指数とは、1 m2 の栽培面積の上に展開している葉の面積(m2)の合計を示す指標です。たとえば、栽培面積 1 m2 の上に、葉が合計で 3 m2 分広がっていれば、葉面積指数は「3」となります。数値が大きいほど、葉がよく茂っていることを意味します。作物の生育状態を把握したり、収量を予測したりする際の指標としても利用されます。

参考 

1.「施設園芸作物の生育・収量予測ツール」

https://www.naro.go.jp/project/results/juten_fukyu/2018/juten06.html

2.「物質生産に基づいたトマトの生育予測技術」

https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2018/nivfs18_s02.html

3.「WAGRI NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)」

https://wagri.naro.go.jp/wagri_api/getyieldpredction-tomato